丹精込めて育てられた和牛の肉は、日本が世界に誇るすばらしい素材です。我が麻布独歩でも、さまざまな趣向を凝らした和牛の料理を品書きに盛り込んで参りました。
その頂点とも言えるのが、麻布独歩の『和牛の熟成ステーキ』。
厳選した肉を55℃に保ち、細心の注意を払いながら2時間かけてじっくり火を入れるこの料理は、すでに多くの方からお誉めの言葉を頂戴しています。
そんな『和牛の熟成ステーキ』が、最高の素材となる肉を得て、ついに真の完成を迎えることとなりました。その肉とは丸一頭分の枝肉を約10週間かけて熟成させた、但馬牛の超長期熟成肉です。
ちなみに牛肉の善し悪しを考えるとき、真っ先に取り沙汰されるのは牛の産地と等級でしょう。しかし、どんなにいい肉でも熟成が的確でなければ、本当のおいしさを味わえません。そこで私は『和牛の熟成ステーキ』を考えた段階から、熟成技術に定評のある老舗精肉店に協力。この料理にもっとも適した肉と熟成方法を求めて、試行錯誤を繰り返してきました。そうして到達したのが、適度に脂の乗った上質の但馬牛を枝肉のまま低温・高湿度の熟成庫に入れ、通常の倍近い時間かけて熟成させた、超長期熟成肉なのです。
その熟成中は職人が目を光らせて、表面に出てくるカビの状態をチェック。いいカビを残して悪いカビは丹念に除去します。こうしてハモン・セラノのように熟成を重ねると、肉から余分な水分が抜けて旨みが凝縮。同時に心地よい甘みと芳香が生まれるわけです。
熟成の完了した超長期熟成肉は、「小ざし」と呼ばれる最高の霜降り状態。線香花火の火花のようにきめ細かく入った脂身は、見事と言うほかありません。赤身の繊細な旨みと脂身のコクが絶妙にバランスしたこの肉を得て、『和牛の熟成ステーキ』は私の思い描く理想の味を実現できました。これならば、赤身のおいしさを知る本当の食通諸氏にも、きっとご満足いただけることでしょう。
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