寿将が料理を作る上で、大切にしていることをお教えしましょうか?
一言で言うと、ラブスピリッツ――何より魂を入れて作る。料理人って、10年も経てば大抵のことはできるようになる。煮たり、焼いたり、また人によっては、ある種サーカスみたいに魚を卸したりと、・・・。
でも、ここで大事なことは、心が入っていないと、自分勝手な傲慢な味になる。最近はやりのラーメン屋とかそば屋、特にこういったのが多い気がする。
本当に美味い物ってなに?こだわりの素材、こだわりの調味料、こだわりの何とか?・・・・これで料理を作ると確かにまずい物にはならないとは思う。
でも、それだけじゃ絶対に美味いと思える料理は作れない。それが最近何となく分かってきた。
僕の育った家では、母親が弟やばあちゃんや親父に対して、それぞれにメッセージを込めた料理を作ってくれていた。相手を思い、愛情がたっぷり盛り込まれた料理が、日々食卓にならんでいた。
僕や弟には骨が強くなるようにと、小魚まるごと、親父にはお疲れさまの酒の肴、ばあちゃんには季節の煮物、・・・・。ある時には命令調のメッセージが入ることもあるし、決して豪華ではないけれど、平野家の懐石、愛のある料理―――。
いつもうちのスタッフに言っているんだけど、頭の中や手先だけで料理は作るな、腹の中心で作れば、上手い、下手ではなくて、本当に素晴らしい料理ができるからと。
結局、かくし味は愛でしょ。ちょっとクサイけど、愛しかない。夫婦でも、恋人同士でも、お互いの気持ちの変化や関係がどうなるかは、食事を作る時に分かる。
頭で考え過ぎず、バーチャルリアリティの世界ではなく、本能で料理を作る、そして、まずは大好きな相手を見つけることが大前提。寿将の料理はいたってシンプルだけど、いつも好きな女性に食べさせたいと思って作っている。
愛情の入った料理は素晴らしいよ、―――日々、愛の味。
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