A rolling stone gathers no moss.
〜転石 苔を生ぜず〜
昔の人はほんとうに素晴らしい表現をしたものだと思う。過去の位置に居座り続ける
ことなく、つねに"現在(いま)"と、そしてこれからの"現在(いま)"を見つめていく・・・・。そういった我々の視点は、"現在(いま)"という時代にかなう原点回帰であること、よりシンプルでいて、人の心の喜びと幸福に満ちている和食とその環境をめざしていこう、と・・・・。
俺はいま、・・・よりシンプルに、そして一太刀入れず、かと言ってただ単に勢いだけでなく、素材の"息吹"やほのかにただよう"香り"というものを大切に料理をつくっていきたい、と思っている。
まもなく43歳を迎えるが、30歳から「平野寿将」の役を演じるようになり、今年で13年目に突入する。ちょうどふた回り目に入る訳だが、これからは料理をつくるときも、本名「平野浩司(ひらのこうじ)」というもう一人の自分が必要になってくる頃だ、と思う。それは30歳まで育った「平野浩司」の"食"の場面とか環境なくしては、これからの料理をつくることは無理だと感じたからだ。
以前だと、他の国の料理造りの技法・・・例えばイタリアンだとか、チャイニーズだとか・・・に興味をもった時代もあったが、これから先大切なのは、いままで生きてきた自分が"感じること"、料理に盛り込まれた"ぬくもり感"や"吐息"、また絶妙な"間"であり、これまでのやり方だけでは通用しない、ということが少しずつ分かりかけてきた。
これは先日イタリアに行ったとき、何人もの人と話し、痛切に感じたことなんだ。イタリア人は自分の育った土地、家族、環境をものすごく大切にし、その中でものを感じ、「食」に関してはことさら、もっとシンプルに、なお且つ重々しさを感じさせるような料理を求める、というのが、誰でもあたり前のことなんだ。
だから彼らを見た時、根っこの部分までがしっかりしている連中、と感じほっとした気持ちになったんだと思う。
振り返れば、俺だって彼らに負けていない豊かな愛情に包まれた人生があった・・・・。
これからはいままで育った環境や、いままで生きてきた自分が"感じたこと"すべてを料理に入れこんで、よりシンプルだけど、ガツン!とくるような料理をつくって
いきたい、と思っている。
2003年1月1日 平野寿将
★平野家おせち料理
● 栗きんとん ●
毎年、祖母が自家製の栗の甘露煮で作っていた栗きんとん。さつまいもを入れることで柔らかく、なめらかな食感の栗きんとんに仕上がる。ねり上げるときは、くれぐれもなべ底を焦がさないように。
「材料」(4人分)
栗の甘露煮:20個
さつまいも:中2本
バニラエッセンス:少量
塩:少々
A
水:50cc
酒:30cc
砂糖:大さじ2
「作り方」
1.さつまいもは皮をむき、2〜3cmに切り、塩の入った熱湯で湯がいて、火が入ったらざるにとる。
2.なべにサツマイモを入れ、Aを入れ、弱火にかけ、つぶしながらねり上げていく。全体的に均一になってきたら、栗の甘露煮、バニラエッセンスを入れ、そのまま耳たぶの固さになるまでていねいにねり上げる。
● 柿なます ●
わが家のなますは、柿なます。生の柿でも、干し柿でも、柿から出るいやみのない甘みがアクセントになっていい味。かぶらをスライスして、鷹の爪を入れてぴりっとさせたなますもうまい!
「材料」(4人分)
大根:6cm
にんじん:3cm
柿:1個
だし昆布:5cm
A
酢:200cc
砂糖:大さじ6
煮切り酒:40cc
塩:少々
「作り方」
1.大根、にんじんは皮をむき、3cmの長さの短冊切りにし、しんなりするまで、立て塩につけておく。柿は皮をむき、7mm弱のさいの目に切る。
2.甘酢を作る。Aを混ぜ合わせ、だし昆布を加える。
3.1の大根、にんじんをかたく絞り、柿とともに2に1時間くらいつける。
4.器に盛り、だし昆布を刻んで添える。
● 大福茶 ●
毎年、正月1日に大福茶を飲みながら干し柿をかじり、東西南北に一礼して新年のあいさつをするのが代々平野家の新年恒例の儀式。
「材料」(4人分)
桜の花の塩漬け:適量
「作り方」
1.桜の花は水で洗い、塩汁を抜く。
2.湯飲みに1をいれ、白湯を注ぐ。
● ぞう煮 ●
ぞう煮は、丸もちのすまし仕立て。生節のぶつ切りが入るのが特徴で、これがだしになり、具にもなる。
「材料」(4人分)
丸もち:8個
生節:100g
昆布:10cm角2枚
水:3と1/2カップ
みりん:大さじ1と1/3
酒:大さじ1
薄口しょうゆ:1/4カップ
塩:少々
大根:適量
ニンジン:適量
ホウレンソウ:適量
「作り方」
1.昆布と生節でだしをとる。生節は1cm厚さに切る。鍋に生節、昆布、分量の水を入れて中火にかけ、煮立ったらアクを取って火を止める。
2.具の野菜を下ゆでする。大根、ニンジンは皮をむいて約3cmの短冊切りにし、軽くゆでて、ざるに上げて水気を切る。ホウレンソウは、塩少々(分量外)を入れた熱湯でさっとゆで、水にとって水気をしぼり、約3cm長さに切る。
3.だしに丸もち、野菜を入れ、調味する。1の汁を温め、丸もち、2の大根とニンジンをいれ、もちに火が通ったら、みりん、酒、薄口しょうゆ、塩の順に加えて味を調える。器に具を形よく盛り、ゆでたホウレンソウを添え、汁を張る。
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